Philippines

第21話 なにもかもうまくいかないアンヘレス

Angelsと書いてアンヘレスとスペイン語読みをするこの街で、私はくすぶっていました。

何もかもがうまくいかない時は、ちょっとしたことの積み重ねでイライラしてしまうのです。

シン
シン
落ち着け…たいしたことじゃない
宿を探して泊まる
それだけだ

貧乏バックパッカーなめんじゃねえ

[9月4日 11:00]

9月10日のマニラ発シンガポール行きの飛行機に乗るために昨晩台湾からフィリピンに戻ってきたのですが、その日までのこと何も考えていませんでした。

6日後なのでフィリピンのどこかに遊びに行ける時間はたっぷりあります。

またこの街自体もおもしろいのかもしれないし、10日までに到着していないといけないマニラに今の時点で移動しておくのもひとつの案です。

なんにせよインターネットが必要なのですが、昨晩ゲキシブに連れてきてもらったマスタード臭の部屋は受付からのWi-Fiが届いていません。

また電源のコンセントが機能しておらず寝ている間にiPhoneを充電できなかったため、一旦この宿を離れる必要がありました。

今日のベストの流れは「マスタードホテルをチェックアウト」→「Wi-Fiが繋がるまともな宿にチェックイン」→「のんびりコーラでも飲みながらネット環境で調べ物をして今日から6日間の予定を立てる」→「その移動先への航空券なりバスなりのチケットを購入する」

特に難易度が高いものではありませんがとにかくこの宿にいても仕方がないので、まずはチェックアウトをしました。

私のイライラはここからはじまったのです。


スマホ老婆
スマホ老婆
300
シン
シン
なんですと?

昨晩いたスマホ老婆からプラスで300ペソを請求されました。

シン
シン
昨日宿代は払いましたよ?
スマホ老婆
スマホ老婆
ここは600だ
あと300
シン
シン
いやいやいや
無理でしょそんなの!
スマホ老婆
スマホ老婆
……
シン
シン

それ以降老婆がなにか言ってくることはありませんでしたが「馬鹿みたいに払うやつだったらラッキー」という考えなのかもしれないと思えてきて、私はイラっとしたのです。

そこにはまともそうなコンセントがあったし、エアコンもきいていたし、Wi-Fiパスワードも書いてあったのですが、朝から不快極まりないため私は鍵を返してすぐに出て行ってしまいました。


昨晩通った時は気づきませんでしたが、あたりはゴミが散乱し痩せた野良犬がウロウロ、窓には鉄格子がしてあってたまに人がジロジロとこちらを見ています。

夜よりも気味の悪い住宅街を足早に抜けると、大通りにマクドナルドを発見したのでとりあえず腹ごしらえをしました。

シン
シン
昨夜ゲキシブと行ったマックとは違うな
もう街の地理が分からん

ここのフリーWi-Fiもほぼ使い物にならなかったため、宿は足で探すしかありません。

マクドナルドのとなりに『HotelSogo12時間666ペソ』と書いてあるのを見つけて、最終手段はあそこだなと決めて外に出ました。


「800ペソ〜」と大々的に広告を張り出しているまともそうなホテルを発見して中に入ってみました。

ホテルの人
ホテルの人
一泊3,500ペソ
(7,700円)
シン
シン
いやいやいや
いやいやいやいやいやいや

ぼったくりが下手すぎて呆れて笑ってしまいます。

その値段だと東横インにだって泊まれるのです。

シン
シン
外に800って書いてあったんですよ
安い部屋空いてませんか?
ホテルの人
ホテルの人
じゃあ…2,000!
どうだ!?グッドプライス!
シン
シン
…さいなら

急に1,500ペソも値下げするということは、最初の値段がとんでもないぼったくりだったということを認めているのです。


外に出ると金髪に髪を染め、ヤンキースの赤いキャップを被り、ぶくぶくに太った肌艶のいい綺麗な格好をした10歳くらいの少年が近づいてきました。

片手にはスマホを持ち、足元はNIKEの真っ白なスニーカーで、片足をスケボーに乗せています。

そして片手をポケットに入れて偉そうな顔をしてこう言うのです。

少年
少年
お金ちょうだい…
お腹が空いてるんだ…
シン
シン
はぁ⁉︎

物乞いでもしているつもりか⁉︎

ガリガリで、ボサボサロン毛で、テロテロTシャツペタペタビーサンの見るからに金が無さそうなこの私に!

私がムッとした顔をすると彼は練習してきたかのように、いかにもな『演技』の切ない表情をしてお腹を抑えて、もう片方の手で口にものを運ぶ動作をしはじめました。

なめやがってこのクソガキが!

いくら日本人だっつってもな!

こっちはおめえより金ねぇんだよ!

貧乏バックパッカーなめんじゃねえぞ!

情けを乞うならダイエットして、髪ボサボサにして、嘘でもいいから汚い格好で来やがれ!

NIKEを履くな!スケボー乗るな!髪染めんな!

練習が足らんぞ豚野郎!

腹が減ってるのはデブだからだろうが!

などとは言えず無視して歩きましたが、苛立ちは募る一方。

バギオの路上生活者である純粋でかわいいかわいいレイモンのためなら食べ物くらいなんでも買ってあげたでしょう。


レイモン
レイモン
シンシンシン!
バスケしようよシン!

私はこの街の人間の「試しにふっかけてみて、騙せたらラッキー」という姿勢に腹を立てているのです。

昨日までの台湾での楽しかった日々はどこへやら、たまに近寄ってくるバイタクの運転手にすら腹が立つようになってしまい休憩をすることにしました。

シン
シン
落ち着け…落ち着け…
これも旅だよきっと…

充電ケーブル

「Internet Cafe」と看板を出している薄暗い店に入りました。

カフェといいながらコーラと水しかないので水を買い、1時間分だけ支払いをして空いているPC席に座りました。

しかし!

Wi-Fiがありません!

置いてあるPCもネット回線が繋がっていません!

シン
シン
きゃー!!

キレました。
私はキレたのです。

iPhoneの充電だけして、あとはとなりでひたすらゲームをする少年をボケーっと見ているだけの1時間でした。

その後もあちらこちらを歩きまわりましたがうまくいく気がしません。

すでに日が暮れています。

スケベ歓楽街である「Walking Street」の様子も見に行ってみましたが、どのホテルもフィリピンとは思えない金額でした。

1泊だけならべつに高くてもいいかとも思ったのですが、エロ目的のみの旅行者やそれをカモにするギラギラしたフィリピン人たちが気持ち悪くてそのエリアをすぐに離れてしまいました。

もはやホテルを探す気力もないので目星を付けていた『Hotel Sogo666ペソ』に行きました。

ホテルの人
ホテルの人
今から12時間800ペソです
シン
シン
ん?それっていい部屋ですよね?
あのう、1番安いところでいいですよ
ホテルの人
ホテルの人
800ペソです
シン
シン
666ペソって外に書いてますよ?
ホテルの人
ホテルの人
800ペソ
シン
シン
…イラッ

たいした金額ではないのです。

台湾の宿のほうが高かったし別にいいのですが、どうも私はこの街の人間を好きになれません。

「必ず明日ここを発つ」と決意し、800ペソを払ってチェックインしました。

汗だくの体を洗い流し、たまっていた汗くさTシャツなどをすべて手洗いしました。

もはや期待などしていませんでしたが、やはりこのホテルのWi-Fiも使い物になりませんでした。
調べ物をするにも1ページのロードに30秒分くらいかかってしまい、充電を食うだけなのでお話になりません。

マックもダメ、ネットカフェもダメ、そしてホテルもダメ。

シン
シン
一体どこでインターネットが使えるんだ?

諦めて備え付けのテレビをつけてみました。

するとなぜか紳士向けの映像作品が音量MAXで映ってしまったのです!

アンアンアン!
イェースイェース!
スーハー!スーハー!
アーンアンアン!

シン
シン
なんじゃぁぁこりゃぁぁ‼︎

リモコンで消そうとしましたが壊れているのか機能しません!

音量MAXは勘弁してくれ!

本体の電源もどこにあるのか分からず、プラグを引き抜き、なんとか消すことができましたが、気分は最悪。

シン
シン
もうたくさんだ!

「台湾でナンシーと遊んでいればよかった」
「そもそもバギオでビザを延長すればよかった」

いくら後悔してもしきれないほどに自己管理の甘さを嫌悪してしまいます。

せめてiPhoneの充電だけはしておこうとケーブルを探しますが見当たりません。

シン
シン
あれぇ…?

あの命の次に大切なiPhoneの充電ケーブルがどこを探しても見つかりませんでした。

どうやらあのインターネットのないインターネットカフェに置き忘れてきたようです。

シン
シン
私は一体この街でなにをしているんだ?

急いでジプニーに乗り店へ向かいました。

※『ジプニー』トラックの荷台10人ほど座れるようになっている激安の乗り合いタクシー。走ってるところを無理やり止めて飛び乗るシステム。

しかし到着したのは21時ごろでシャッターが閉まっていました。

シン
シン
終わった…

2013年、まだ謎のアンドロイドモバイルの普及率が高かったフィリピンでは、まともなiPhoneの充電ケーブルなど近辺の露店では売っていません。

電気屋も当然閉まっています。

明日この街を出たかったのに、宿探しやインターネットや電源という初歩的な問題を丸一日かけて解決できませんでした。

つまり明日もまたインターネットを求めて動きまわるしかないとなると、ここを出るのは明後日。

9月10日のフライトまでの時間が少なくなり、より忙しい生活になってしまいます。

また最悪の場合、今後もうまくいかず6日間この街にいることになるところまで想像すると、もはや絶望に近い感覚になるのです。


再びジプニーに乗りHotel Sogoに戻りました。

12時間の料金を支払っていますが、チェックアウトの時間を超えると延長料金がバカみたいに高くなるとのこと。

18時にチェックインしたので、確実に朝起きて6時までにチェックアウトしなければならないという状況です。

しかし私のiPhone5はかなり古く、充電の減りが早いため目覚ましはおそらく使い物になりません。

カウンターでモーニングコールを申し出ましたが、1回につき40ペソがかかると言われました。

シン
シン
なんで?

としか言えません。

金は払ってもいいのです。
しかし1回目でこちらが出ないと、2回目はまたその謎の『モーニングコール代』がかかるシステムなのです。

シン
シン
じゃあ起きたときに「10回電話かけたけど、出なかったから10回分400ペソ払え」って言えるじゃないですか!
あんたたちそういうのやるじゃないですか!

モーニングコールを頼むのはやめました。

もはやこの街の嫌な人間より、己の体内時計の方が信用できるような気がしているのです。

そして再びシャワーを浴び食事をして、寝るころには24時。

iPhoneの充電は残りは18%で一応アラームをかけて寝ました。

シン
シン
起きる!私は起きる!
5時半に絶対起きる!
目覚ましなくても絶対起きる!

寝る前に強く念じます!

これで寝過ごしたら明日も気分が悪い1日が待っているはずなのです!

シン
シン
起きる!起きる!起きる!
5時半!5時半!5時半!

そして目が覚めたの午前2時半ごろ。

シン
シン
念じすぎた〜

そこから寝るのは危険だと判断し、フラフラで眠い状態で起き続けてなんとか朝6時にチェックアウトができたのでした。