Philippines

第4話 カルチャーショック

18時を過ぎ、薄暗い中私を乗せたバンはマニラの街を進みはじめました。

私はじめて見る日本以外の街並みを見て衝撃を受けました。

シン
シン
ここらへんって、いわゆるスラム街ってやつですか?
イロジロ
イロジロ
いえ、このあたりは比較的安全できれいなエリアです
富裕層も暮らしていますよ
シン
シン
えええ⁉︎マジっすか!

ボロボロの家々とボコボコの道路、野良犬がそこらじゅうでウロウロしていて、なんでもないような場所で人が寝ています。

破壊されたようなコンクリートの破片や、大量のゴミが地面に散らばっています。

さらに信号で車が停まると浅黒い肌の少年たちがジロジロとこちらを見ています。

シン
シン
これがきれいで安全な場所だと?

想像はしていましたが、現実のアジアの街を目の当たりにして言葉を失いました。

トミオ
トミオ
がははははは!
なんだキミ!
海外ははじめてかい!
俺は100カ国いったことあるぞ!
ははははは!

100カ国も行っていまさら語学留学かい!

なんで2人とも大丈夫なんですか?

私の短期留学先があるバギオという町はフィリピンの本島(ルソン島)の北部に位置していて、マニラから車で約5時間とのこと。

しばらくマニラの街中を走ったあとバンは高速道路に乗り、一気にスピードを上げます。

助手席に座るイロジロがPCに猛スピードでパチパチと文字を打ち込む音。

私の隣で寝ているトミオのいびき。

フィリピン人の運転手はずっと誰かと電話で話しています。

我々4人の会話はすぐになくなり、聞こえてくるのはこれらに加えて100kmで走る車の走行音のみ。

あたりはもう真っ暗で、道路灯と車のライトが照らすもの以外なにも見えません。

シン
シン
ほんとに着くのかな?

いまここで放り出されたら人生終わりだな。
ボロボロの車でこのスピード大丈夫?
イロジロさんあなた謎に包まれ過ぎてて怖いよ。

約3時間。
この不気味な沈黙になんともいえない不安を感じていると、バンは日本でいうサービスエリアのような場所に入りました。

イロジロ
イロジロ
ここで一旦休憩です
車に給油をするのでその間にトイレと夕食です

トミオとともにトイレへ行くとあまりの汚さに絶句。

シン
シン
おえぇ〜息くさおじさんよりくさい!

その後4人で軽く何かを食べるとのことで売店の外にあるテーブル席につきました。

事前に振り込んである学費にこの日の送迎代と夕食代も含まれているらしいのですが、食えたものではありませんでした。

出された夕食というものはアルミホイルに包まれた魚のニオイがする謎の肉のサンドイッチでした。

シン
シン
なんかくさみがすごいんですけど、これ何の肉ですか?
イロジロ
イロジロ
え?ぼく知りませんけど
パクパク
お口に合いませんか?
トミオ
トミオ
うっまいじゃんこれ!
がはははは!
シン
シン

トミオからは「まずい肉でも平気で食える俺、かっこいい」といった感じが見えますが、イロジロに関してはなぜ私がサンドイッチを食べられないのか不思議でならないといった様子。

運転手がフィリピン人であるため「おえー!まっずう!」などと露骨な態度は取れず、我慢して完食しました。

言葉は知っていたけど、体験したのははじめてかもしれません。

まさにこれがカルチャーショックってやつです。

しまいには調子に乗って葉巻を吸いはじめるトミオ。

なんだか夜中にヤバい一味に捕まったような感覚に陥ってしまいました。

10分ほど休憩して再び高速道路を進みます。

しばらくするとどこでその境目があったのかまったく分からぬまま、気付いた時には灯りのない山道に変わっていました。

バギオは標高1,500mの山岳地帯に位置しているため一般道はグニャグニャに曲がっています。

バギオがマニラやセブみたいな都市ではないことは知っていましたが、田舎町とかいうレベルではなくこれはもはやただの森です。

ガタガタと揺れながらボコボコの道路を猛スピードで走るバン。

街灯がなくはっきりと分かりませんが、おそらくカーブの途中にすらガードレール的なものがありません。

シン
シン
これ…大丈夫なんですか⁉︎
イロジロ
イロジロ
え?なにがですか?
トミオ
トミオ
キミ、こわがりすぎだぞ!
がははははは

2人とも日本人ですよね⁉︎

なんでずっと大丈夫なんだ⁉︎

マニラからずっと抱えていた不安はピークを迎えました。

シン
シン
このままこの人たちの手によって山に埋められるのか!?

とまで想像し終えたころ、急に窓の外が明るくなりました。

シン
シン
おいおいおい!
うそだろこれ!

対向車もほとんどないような真っ暗の山道を抜けた先には、想像していた何倍もの大きさの街が広がっていたのです!

シン
シン
おおおおおおおお!
こんなところに文明が!

もともとその予定だったのに、目的地に着いただけでなぜこんなにも感動的なのでしょう!

インドを見つけたヴァスコ・ダ・ガマ氏も同じ気持ちだったのでしょうか!

恐怖から解放されて急にベラベラとひとりで喋りはじめたこの私。

シン
シン
あっみなさん、私のことウザそうですね?

とやっと気付いたころ、ついにバギオの学校に到着しました。

キノコ

23:00。

2日後のオリエンテーションの説明を受けたあと、これから私が寝泊まりする部屋に通されました。

5階建のボロいアパート、中は4人部屋で今は韓国人がひとりしかいないとのこと。

イロジロ
イロジロ
これ、鍵です!
じゃあ…これで
質問は…ないですよね!
じゃあ!

聞きたいことが山ほどありましたが、イロジロは疲労困憊のようで逃げるように去っていきました。

シン
シン
いきなり外国人と2人で住むなんて
大丈夫なのか?

恐る恐る中に入ると誰もいません。

土曜なのでどうやら遊びにでも行っているようです。

私もかなり疲れ果てていたので空いてるベッドで横になり目を閉じました。

その瞬間!

ガチャ!とドアが開く音がしたのです!

シン
シン
ヤバい!
同居人帰ってきたか⁉︎
英語で挨拶⁉︎
無理無理無理!
明日にしてくれ!

ということで寝たふりをはじめた私。

しかし電気をつけられたのをまぶたの先に感じてそっと目を開けると、そこにはキノコ頭の人間が私の顔からわずか40cmほどの距離にあったのです。

バッチリ目があったあとに寝たふりはさすがにできないため一度起きます。

キノコ
キノコ
Hi I’m Jay

キノコ頭Jayに挨拶され、そこから深夜の自己紹介タイムがはじまりました。

キノコ
キノコ
移動疲れたでしょ
起こしてごめんね
今日からよろしく!
ビール飲まない?
シン
シン
いえいえこちらこそよろしくお願いします!
ビールいただきます!

そのJayというキノコ頭の男はなかなか優しい男。

国は違えど仲良くなれそうな予感がします。

彼の話す英語もなんとなく分かったのでホッとしました。

移動中の不気味な恐ろしさと、トミオと同じ部屋だったらどうしようという不安はキノコのおかげでなくなり、その晩はぐっすり眠ることができたのでした。