Philippines

第5話 学力テスト

意識の高い生徒達が集まり短期集中で英語を学ぶ。

語学学校とはそんな場所だと思っていました。

シン
シン
私のようなろくでもない人間はまわりについていけず、泣く泣くリタイアするかもしれない

というところまで覚悟していました。

しかし私が選んだこの学校の実態は、イメージをはるかに下回るものでした。

中学以来まともに勉強していない私でも、それほど大きな劣等感を抱くことなく授業に参加することができたのです。

学力テスト

2013年7月7日。

学校初日です。

いくつかの書類にサインをして、ひとしきりの説明を受けます。

私は日本にいるうちに6週間で申し込んでいました。

この学校は週ごとに生徒が出入りするシステムで、半年いる人もいれば1週間ですぐに帰国する旅行気分の人もいます。

同期は私を含めて7人。

その中にはマニラから一緒に移動してきたトミオ(60)もいます。

[トミオ]

トミオ
トミオ
シン!がんばろうな!
シン
シン
100カ国行ったのに英語ダメなんですか?
トミオ
トミオ
おう!さっぱりなんだ!
がはははははは!

トミオのほかに同期の日本人は2名。

[おかめちゃん]

おかめ
おかめ
シンさんってどれくらい英語できるんですか?
シン
シン
ビートルズの曲を「良いなぁ」と、思えるくらいですかね
おかめ
おかめ
ぷぷぷ
なにそれ
全然ダメじゃん

本気の留学をしにきた大学生おかめ(21)。

彼女の話を聞く限り、私などライバルにすらならないほどの実力をお持ちなのでしょう。

[ドンキくん]

ドンキ
ドンキ
おれぇ!名古屋出身っす!
親の都合でしばらくフィリピンに住んでたんすよぉ!
でもハーフじゃないっすよぉ!
シン
シン
どんな都合だ⁉︎

地方のドン・キホーテの駐車場に青光りするダサい車を停めて用もなくたむろしてる感じの男、ドンキくん(20)。

問い詰めるとじつは岐阜出身だったドンキくんは、フィリピンに住んでいた経験があるだけあって、かなり英語を話せるように見えます。

韓国人の同期は3名。

ルームメイトのキノコくん(24)

[キノコ]

ハイトーンボイスのデブ(28)

[デブ]

アメリカ留学予定のアン(20)

[アン]

私を含めたこの7人がこの週の入学生です。

韓国からの生徒は自国での就職のため、もしくはアメリカやイギリスへの本留学前のウォーミングアップを目的としてフィリピンに来ている人が多いようです。

一方で日本人は私のような『バックパッカー』ドンキくんのような『暇つぶし』トミオのような『人生の消化試合』と、目的は様々です。


オリエンテーションが終わり、すぐに学力テストが行われました。

リーディングはなんとなくですべての解答欄を埋めることができましたが、問題はリスニング。

古き良きボロボロのラジカセから鳴る、ガサガサで飛び飛びの音声はおそらく日本語だったとしても聴きとることが難しいでしょう。

シーンとしている時に大事なところで20秒も止まったり「チュクチュク!」とDJのスクラッチのような音が要所要所で挟まれるたびに笑ってしまう私。

シン
シン
オールドスタイルにこだわらず、PCから音声データを流してみてはいかがでしょう?

と思うのみでした。

続いてライティング。

中学以来勉強していない私ですが、逆にいえば中学までは勉強していたのです。

センス丸出しの英文は書けないまでも「〇〇は〇〇だ」みたいなことはなんとなく書けてしまいました。

問題は単語のスペルを全然覚えていなかったこと。

「does」と「dose」とか「meet」と「meat」なんてなかなか覚えられないし、「should」や「knowledge 」のような単語は「あんたたち!見た目と発音がぶれてるよ!」と素直に覚える気になれなかった学生時代を思い出しました。

しかしこれは個々の能力を測るテストなので、そんなことは気にせず誤字だらけの作文を書き殴り提出しました。

最後にスピーキングテストで一悶着。

与えられたトークテーマが「Family」であったことが私を苦しめました。

シン
シン
親を憎んでおりずいぶん前からひとことも話していないので、この場で言うことはない

と身振り手振りで説明したところ退室を命じられる始末。

しまいにはそれを担当したティーチャー・アマンダに呼び出され説教を受けました。

アマンダ
アマンダ
あんた26でしょ?
いい大人なんだから、親を大切にしなさい!
シン
シン
はいすんまへん

無事学力テストが終わり、昼休みを経て結果が出ます。

振り分けられた称号により、選べるグループクラスが変わってくるのです。

結果発表

1位はおかめとアンの若者女子2人。

おかめ
おかめ
えっへん!

アン
アン
男子たち!情けないわね!

『High Intermediate』という称号を与えられまんざらでもないご様子。

2位は私とキノコ。

キノコ
キノコ
え…そんな…
そんなバカな話があるのか…⁉︎

シン
シン
はっはっは!
舐めてもらうと困るよキノコくん!

「シンには絶対に勝てる」と思っていのであろうキノコは、初対面時から何かと先輩ヅラをしていましたが、私と同点ということは全然たいしたことないのです。

シン
シン
私は中学の時に英検3級に合格しているのだよ!
キノコくん!
キノコ
キノコ
エイケン⁉︎
なんだそれは⁉︎

しかし「Upper Beginner」 というなかなか恥ずかしい名前。

つまり我々の英語力はその名の通り「ビギナー」なのです。

3位はこの3人!

トミオ、ドンキ、デブ!

クラスは『Beginner』

これはアホ、もしくは赤ちゃんという意味です。

わたしとキノコの『アッパービギナー』とは違って、なんの混じりっ気もない純粋な『ビギナー』です。

ドンキくんはかなり話せるのに読み書きとなるとなにひとつ分からないとのこと。

ドンキ
ドンキ
おれぇ!
トークなら全然いけるんすよ!
でも書くの無理でぇ!
ぶっちゃけカタカナとかも厳しいっすよぉ!
シン
シン
岐阜の小学校で学び直しなさい
ドンキ
ドンキ
ギリ名古屋っすよぉ!
名古屋よりっすよぉ!

デブに関しては声が高いだけで全然ダメです。

「28年間、どうやったらそこまで英語を避けて通れるのか?」というほどに話せていませんでした。

デブ
デブ
ん〜あ〜…ん〜

ミーイズ…コリアン…

シン
シン
I am がわからんか⁉︎

そしてトミオにいたってはお話になりません。

先生
先生
Hey Tomio!
How long are you gonna stay in Philippines?
(どれくらいフィリピンにいる予定?)

トミオ
トミオ
マグロ?
そうだな!お寿司が好きかな!
日本のマグロはうまいぞ?
ん?違う?
なんて言ったの?
な・ん・ていっ・た・の〜?
シン
シン
ゆっくり言っても意味ねぇよジジイ

フィリピン人の先生に英語で話しかけられて日本語で返すという根本的な間違いに気づいていません。

学校の1日の流れは朝から4クラスのマンツーマンの授業があり、昼休みのあとにグループクラスが2クラスあります。

どういったところを学びたいかを生徒が選べるという素晴らしいシステム。

私はバックパッカーとしてのコミュニケーション能力を養うべく、スピーキングのクラスを多めに入れました。

イロジロ
イロジロ
シンさんのレベルだと、文法系のクラスも入れとかないとそもそもスピーキングできないですよ

シン
シン
ギクッ‼︎

イロジロの鋭い指摘を受け、ABCからはじまるような基礎の授業もいくつか入れてみました。

しかし数日後に少しレベルの高い場所へ移ることになります。

なぜならビギナーの集まるクラスではトミオと同じグループになること多く、彼が日本語で先生に質問するので授業が進まないからです。

全然高くはないけども、それでもまあまあのお金を事前に払っているので「もとを取るつもりでもしっかり勉強しよう!」と誓うのでした。