Taiwan

第17話 バックパッカー荷物の断捨離

フィリピンを出てから気になっていたことがありました。台湾に到着してから歩きすぎていて足腰が限界を迎えているのです。

その原因は間違いなく重すぎる荷物です。

15kgの緑色の大きなバックパックと5kgの主に貴重品の入った青色のサブバッグ。バックパッカーなのにバックパックを背負うのが嫌で嫌でたまりません。

昨晩ナンシーの少なすぎる荷物を見た時に私はハッとしました。

シン
シン
やっぱり旅人ならば荷物は少ないほうがかっこいい

大量の持ち物

[10:00]

ガチャッ‼︎

ナンシー
ナンシー
おはようさん!朝メシいこか!
シン
シン
ビクッ!

関西のおっちゃんみたいな挨拶をしながら勝手に私の部屋に入ってきたナンシー。

ナンシー
ナンシー
うわ!なんなんこれ!

昨晩2時まで彼女と将棋を指したあと、私は荷物を見直すべくバックパックの中身をすべて取り出して地面に並べていました。

睡魔に抗えず、散らかしたまま私は寝ていたのです。

顔を洗い「いきなり人の部屋に入るもんじゃないですよ」「知らんがな!チンポでも触ってたんか?」「そんな言葉使うもんじゃないですよ」というやりとりをしたあと、近くのカフェでナンシーと軽く食事をしました。

ナンシー
ナンシー
あんな、シンはこれから長いこと旅するやん?
あの大荷物考えたほうがええと思うで
シン
シン
そう、私もそれを考えていたんですよ
ナンシー
ナンシー
うちなら半分以上捨てるで
たぶんそのくらい使わんと思うねん
シン
シン
おっしゃるとおりですね…

お会計をして宿に戻ります。

当然のように私の部屋までついてくるナンシー。

シン
シン
ナンシー
ナンシー
なんやねん
シン
シン
ナンシー、自分の予定は?
ナンシー
ナンシー
ないねん
あんたは?
シン
シン

有給を取ってひとりで旅行に来ている彼女と、ゴールを見据えていない無期限旅行者の私は全然違うので「なんだか悪いなぁ」という気持ちです。

もちろんひとりよりも誰かといたほうが日々の生活は楽しくなるはずなのですが「ナンシーは観光をしに台湾に来たんじゃないのか?」と疑問に思うほど宿内にいます。

しかし彼女が楽しいのなら別にいいのかなと、ごちゃごちゃ考えることはやめました。

ナンシー
ナンシー
あんたは?
シンは台湾でなんか予定あんの?
シン
シン
特になし!
ナンシー
ナンシー
よっしゃ!ええやん!
ほんならこれからあんたの荷物の仕分けと断捨離やな
終わったら郵便局から日本に送る
ほんで夜はメシ行くねん!
どや?


広げられた荷物を改めて眺めると、自分でも信じられないほどの無駄があることに気付かされました。

[メインのバックパック]

・衣類

Tシャツ7枚、ロンT3枚、長袖のシャツ2枚、セーター1個、下着と靴下いっぱい、チノパン1個、カーゴパンツ1個、デニムパンツ1個、短パン2個、海パン1個、帽子2個、ビーチサンダル1足、おしゃれで重いサンダル1足、革靴1足、スニーカー1足、バスタオル3枚

・本

英語文法本、英語単語本、坊ちゃん、ガープの世界(上・下巻)、オリヴァー・ツイスト、地球の歩き方インド2013年版、英語の勉強をしたノート2冊、分厚い日記帳

・その他

胃薬、ロキソニン、日焼け止め、オロナイン、爪切り、耳かき、文房具一式、洗面具一式、フィリピンで友達にもらった手紙

ナンシー
ナンシー
ほぼいらんな
シン
シン
ええ…?

[サブバッグ]

財布、PC、カメラ、充電ケーブルなど、電子辞書、腰巻きセーフティポーチ、パスポート、財布、小さいタオル2枚、その他細々したもの

ナンシー
ナンシー
こっちはほんまに全部いらんわ
なんで持ち歩いてんねん
シン
シン
パスポートはいる
確実に

確かに多すぎました。

フィリピンの時から触っていないものも多数あります。

これらのほかにもバギオのナイトマーケットなどで買ってしまったガラクタや、捨てるに捨てきれない頂き物などが大量にありました。

仕分け

ナンシー
ナンシー
うちなら8割捨てるで
シン
シン
そんなに捨てたらバックパックしか残らん!

ナンシーの指示を受けて『いるもの』『捨てるもの』『日本に送るもの』の3種類に分けました。

まず服がかなりの幅を利かせています。

しばらくはアジアしかまわれないだろうと思い、『長袖』はすべて排除しました。
Tシャツやパンツも最低限に。
そして靴類はすべて日本行きとなりました。

ナンシー
ナンシー
革靴がほんまに意味分からんわ
シン
シン
フィリピンで安かったからつい買っちゃって

スニーカーを1つとっておくつもりでしたが「いつ履くん?」のナンシーのひとことで、今後はビーチサンダルだけで生きていくと決意。

ナンシー
ナンシー
ビーサン壊れたらな、そん時また買うたらええねん
シン
シン
なるほど!

そして下も短パンと海パンのみ。

今後は蚊に刺されるのを覚悟して生きていきます。

ナンシー
ナンシー
本はあかんな
うちからしたら全部ゴミやで
シン
シン
わざわざ日本から持ってきたのに…

そもそも本のせいでだいぶ重くなっているようなもの。
日記帳と地球の歩き方以外はすべて排除。
小説類はこの2ヶ月でほとんど読んでいなかったため、宿の本棚に寄付となりました。

ナンシー
ナンシー
どうせ日記書いてないやろ?

ナンシーから指摘がありましたが、なんとこの私日記だけはつけていたのです。

英語の文法本だけは半分以上読み進めていたため、ナンシーがよそ見をしている隙にサッとしまいました。

耳かき、爪切り、ボールペン、薬類の最低限はキープしました。

ナンシー
ナンシー
爪切るかなぁ?
シン
シン
切るよ

サブバッグはほぼすべて日本に送ります。
バッグごと送ります。
壊したり盗まれたりも嫌なのでMacBookもタオルに包んで日本に送ることになりました。

そもそも「PCを使うことがまったくできない系バックパッカー」の私はただただ持ち歩いて、たまに開いてかっこつけるだけだったので必要ありません。
これまでもiPhoneだけでこと足りていたのです。

ナンシー
ナンシー
さっきこの腰巻きポーチ使ってへんかったやん
わざわざええの買うてきて
それいくらしたん?
シン
シン
4,000円…!
ナンシー
ナンシー
ほんまにアホやで

近所の八百屋からダンボールをもらい、荷造りをしてついに完成!

20kgから8kgになったバックパックを背負って周辺を走ってみました!

シン
シン
軽い!
背負ってない時より軽いですよ!
ナンシー
ナンシー
ほな、郵便局いこか

面白いことを言ったはずでしたが、ナンシーはそういうのを笑わないタイプの人間です。

ツンデレやねん

東門(トンマン)に郵便局があるとのこと。
荷物を持ってナンシーとともに東門駅へ向かいます。

トンマンに住むカクガリとの出会いと怪しい施設に泊まった台湾初日話をしました。

ナンシー
ナンシー
ほんでほんで?
スペシャルマッサージはいくらやったん?
シン
シン
いやスペシャル体験はしていないけど…
ナンシー
ナンシー
なんでやねん
おもんないな
シン
シン

またもや彼女を笑わせることができませんでした。

べつにナンシーのことは苦手ではありませんが「この旅行楽しいのかな?」と思うのです。

私はフィリピンのビザの関係で不本意ながら台湾に来ているので、そもそも観光をする気がありませんでした。
しかし日本から台湾にわざわざ来たナンシーには限られた日数でやりたいことをやって欲しいのです。


受付に行き日本に送りたい旨を伝えます。
軽く中身を見てもらい、中身の内容と日本の住所を紙に書いて終わりです。

八百屋の段ボールにはレタスが付着していたため、ちょうどいい綺麗な箱に入れもらいました。

計量してお金を払って終了。
おおよその到着日と追跡できるサイトのURLを教えてもらい、郵便局をあとにしました。

海外から日本にものを送ることに対して大変で高額なイメージがありましたが、日本の郵便局とほとんど変わらないことに驚きました。
なかなかの重さでしたが金額も数千円だったので、今後も使えるなとまたひとつ知識が増えて旅人として成長したのです。

断捨離を終えてスッキリしたご機嫌の私。

シン
シン
良かった!
これでまた思う存分荷物を増やせますよ!

どうせナンシーは笑いませんが、私はこういうことを言いたがるやつなのです。

ナンシー
ナンシー
…ぐふふっ

なにぃ⁉︎
笑った!

シン
シン
いま笑ったね⁉︎

なぜだ⁉︎
なぜこんなに嬉しい!

ビザの関係でシンガポール行きの航空券を捨てなければいけない可能性があったことを『王手飛車取り』と例えてみたり!

過去に知人にハメられて詐欺にあった話に対して『鬼殺し』じゃないんだからと例えてみたり!

将棋好きの彼女に寄せたことを発言してもいっさい笑うことがなかったのです!

※『王手飛車取り』王手がかかっているため飛車を見捨てなければならない
※『鬼殺し』振り飛車による有名なハメ技

しかしはじめて笑った彼女を見て私は何かに合格したような安心感を得ました。

シン
シン
ナンシーって笑うんだ
私と行動しててつまんないんだろうなって心配してたよ
ナンシー
ナンシー
ほんまごめんな
よう言われるわ
うちひとみしりでツンデレやねん
シン
シン
それ自分で言うとツンデレになりませんよ!
ナンシー
ナンシー
ぶほほほほほほほ
ほんまはな、昨日からずっと楽しいで
でも人に慣れるまで時間かかんねん
緊張してうまく笑われへん
シン
シン
そんな人は勝手に部屋に入ってきたりしませんよ!
ナンシー
ナンシー
ぶふふふ
ぶほほほほ

緊張がほぐれたのか、水を得た魚のように笑い出すナンシー。

それからは私もリラックスして会話をできるようになり、これまでにないほどに楽しい時間を過ごせるようになりました。

「バックパッカーならば日本人とばっかりつるまずに現地の人や外国人旅行者と触れ合うべきだ」という強い意見に私は賛成しています。

しかし日本で絶対に知り合うことのない日本人と海外にいることによって偶然知り合えたことは私にとって貴重でありがたいことなのです。

夜は台北駅近くで麺料理を食べて、宿に戻って再び将棋を指しました。

ナンシー
ナンシー
パチッ!
おら!
ふんどしの桂やで!
ぶははははは!
シン
シン
(笑い方がへんだな)

『ふんどしの桂』ふたつの筋に飛べる桂馬の特徴を活かした相手のふたつの駒のどちらか一方を確実に取れるという、くらったらちょっと痛い技