ナンシーとともに大幅にものを減らして驚くほど荷造りがラクになりました。
そもそも20kgを背負って歩きまわることに限界を感じていたための断捨離でした。
この台湾旅行のように今後は数日間の滞在で別の街や別の国に移っていくていくため、さらに毎回の移動時に荷造りのストレスが軽減されるというメリットもあることに気づいたのです。
今回思い切って荷物を見直したことは私にとって大正解でした。
よしそろそろ行くか
[10:00]
チェックアウトの時間です。
飛行機の時間は21時。
その時間までの暇つぶしを考えながら部屋を見渡して忘れ物がないか確認しています。
全部言った!
ガチャッ‼︎
朝メシいこか!
ってあんたなにしてんねん!
毎朝のナンシーの突然の訪問はもはや恒例となっており、びっくりすることはありません。
とりあえず朝メシ行くで!
ナンシーと過ごしたこの3日間、お互い具体的な予定などを話したことがありませんでした。
朝起きてこの日何をするか話し合って、遊びに行って帰ってきたら夜に将棋をして終わり。
チェックアウトをして宿に荷物を預けると、いつものカフェで食事をしました。
いつもより無口で無表情に見えるナンシー。
無言でサンドイッチを食べ終え、タバコに火をつけて何回か煙を吐いたあと彼女は急に話し出しました。
21時発の便だから18時くらいには台北駅からバスで空港に行くよ
バックパッカー金ないやろ?
それでええやん!
うちは4日後の9月7日に日本に帰るから、その日に飛ぶやつシンのも買うたるわ!
フィリピンでもシンガポールでもアメリカでもどこでも行ったらええ!
な?頼むわ!
ほんまは付き合って欲しいくらいやで!
…え?
うちあれほんまに嬉しかってん
そういうふうに見えるんやって思ってな
あんたは25か26やろ?
結婚もしてんねん
あんたも嫌やろ
うん……うーん?
うちはうちで向こう2ヶ月は休みも取られへんくらい忙しなんねん
うち、横浜のイタリアンの店の料理長やからな
『あみ』って呼んで欲しいし、手繋ぎたいし、やりたいんやったらやってもええ!
え〜…?
シンはモテてるんちゃうねん
うちが変わってるだけ
あんたは女からモテへんタイプやで
金もないし、ひとりでなんもでけへん
好きなもんは好きやねん
今日行くなんてほんまに信じられへんからもっとおってほしい
全部言った‼︎
こちらの相槌や返答をほとんど挟むことなく、ナンシーは思いの丈をすべて一気に吐いたのです!
意外すぎる発言と新しい情報が多すぎて脳の整理が追いつきません‼︎
チンポまんじゅう
[17:00台北駅バスターミナル]
空港行きのバスのチケットを買って時間までナンシーと話しています。
午前中の彼女の告白により、時間が経っても私は相変わらず変な気持ちでした。
一方でナンシーはこの3日間思っていたことを一気に吐いてスッキリしたのか落ち着いている様子。
空港で食べぇ
日本にお土産で持って帰りなよ!
絶対ウケるよ!
もう2年くらい旦那とは住んでへんし、あっちは別れてると思ってるはずやわ
淫乱やから「やらせろ」言うたんとちゃうねん
でももう言わん
忘れてくれや
シンはこのまんじゅう食べてチンポデカくしい!
デカくなったら教えてな!
跡形もなく食うたるわ!
ぶははははは!
こんなのでデカくなるんだったら
台湾の男たちすごいことになるよ
私の台湾旅行の記憶はすべてナンシーでした。
有名な九份をはじめ台湾には多くの観光スポットがあるはずなのですが、それらに行くことなくナンシーと宿の近所をブラブラして将棋を指しただけだったのです。
しかし「もっといろいろ見ておけばよかった」といった後悔のようなもの不思議と感じておらず、旅行として完璧に思えるほどの充実感がありました。
バス乗り場に空港行きが到着したので、荷物を積み込みました。
そん時あんたがどこにおるかは知らんけどまたこうして遊ぼう
ほなまたな
ナンシーはそう言って行ってしまいました。
またこれだ。
バギオでさっちゃんと別れた時とは種類が違うけど、それでもやっぱり寂しさが残ります。
そしてひとりになった途端に訪れるあの不安感。
4日前にフィリピンのクラーク国際空港で感じた時と同じようなピリピリするこの嫌な気持ちは、今後旅を続けていくうちになくなるのだろうか。
そしてそのクラークにこれから戻った時に私は台湾のように楽しめるのだろうか。
「やっぱりナンシーに航空券を買ってもらってもう少し台湾に残ればよかった」
バスの中で一瞬考えました。
日本にいる時に自分のことを『強い人間』だと信じてやまなかった私は、海外に来てこうしてたびたび弱い自分を目の当たりにするのです。
4日前に財布を落とした空港に再び戻ってきました。
その夜のことを思い出した瞬間、旅人としていくらか成長している気がしました。
「夜中の到着であれば街に出るより安全な空港で寝ていたほうがいい」
あの日は運良くカクガリに助けてもらって野宿は避けられたのですが、今後はそううまくいくはずがありません。
簡単なことですがこれは初心者バックパッカーの私にとって大きな学びでした。
[20:30]
台湾桃園空港からフィリピンのクラーク国際空港への便の搭乗がまもなくはじまります。
到着は23時。
ゲート前の椅子に座ってチンポまんじゅうを食べ終えた私は機内へ乗り込みました。