[9月5日 6:00]
プンプン!
災難続きだった前日からのイライラを引き継いでいるようで、朝から気分が優れず気温にまで腹を立てているこの私。
2時間半しか寝ることを許されなかったのでイライラするのは無理もないのですが、気持ちを切り替えてこの日をうまくやり過ごしたいところです。
もはや「楽しもう」などとは考えていません。
「ストレスなく穏やかに過ごしたい」それだけなのです。
私の旅はこれで終わり
この日のミッションのひとつめは10時にオープンするインターネットカフェにiPhoneの充電器とケーブルを取りに行くことです。
無ければ電気屋で新しいものを買います。
そして今日こそまともなWi-Fiスポットを見つけだして、調べ物をしながら9月10日までの残り5日間の過ごし方を決めること、このふたつです。
前日のホテルは18時から12時間のプランだったので、朝から外に放り出された寝不足の私は頭がボーっとして正常な判断ができなくなっているようです。
誰もいない公園の芝生に仰向けになり、蚊取り線香を炊いて眠りはじめました。
まるで生贄の祭壇。
村に雨を降らすために山の神や魔王なんかに身を捧げる儀式のような異常行動ではありますが、誰もいないのでべつにいいのです。
本来生贄ならば『村一番の美しい娘』などが適しているので「ロン毛の小汚いバックパッカーですみません魔王様」と唱えて眠りにつきましました。
熟睡すること4時間。
尋常ではない暑さで目覚めると、バックパック上部の蓋のような部分が留め具を外して全開になっていました。
私の睡眠中に何者かが荷物を漁ったのは間違いありません。
前日からのストレスはここで爆発。
もう驚きもしないし、悔しがることも悲しむこともありませんでした。
そんなのほんとに生贄だ
私は旅人失格ですな
バックパッカーなんて向いてないね
さっさと日本に帰って仕事探しだ
帰国を決意した私は再び仰向けに寝転び、バギオと台湾とこのアンヘレスという町で過ごした2ヶ月間を振り返りました。
この短期間でいわゆる『自分探し』に成功したように思えてきたのです。
見つかったのは自己管理が甘くてだらしない自分。
バイタリティが無さすぎる自分。
そして誰かと別れる時に寂しいと思う自分です。
起き上がって残った荷物を確認しました。
ガサガサゴソゴソ…
オカマ
前言撤回!
つい数分前に旅をやめることを決意しましたが、荷物がすべて揃っていたので今度はそれをやめることにしました。
貴重品はすべて身に付けており、バックパックの中には生乾きの服と生活用品しか入っていなかったので、荷物を漁った者もさぞガッカリしたことでしょう。
バカめ!
ほかを当たりなさい!
しっかりと睡眠をとった私は元気を取り戻し、前日のネットカフェへ向かいました。
中に入ると昨日もいた店員が私を見るなり奥から充電ケーブルを持ってきてくれました。
スムーズすぎて逆に怖い!
相変わらずインターネットのないインターネットカフェですが、iPhoneの充電が必要なため、再び1時間の料金を支払ってPC席に座りました。
そこでひとつの作戦を思いつきました。
充電が終わるとさっそく空港へ向かいます。
バギオからクラークに向かった時はバイタクを使って軽めにぼったくられたのですが、今回は違います。
ジプニーや乗り合いタクシーを使えば激安で行けることを知っているのです。
ゲートと呼ばれる空港の入り口にジプニーで行きました。
ここからどうやって空港まで行くんだろう?と考える必要もないほど人が寄ってきます。
いちばん安かったおじさんの車に決めて、待つことにしました。
しかしなかなか人が集ならないので付近を散歩していたところ、ミニスカの面白すぎるオカマを発見しました。
これを撮らないでなにを撮る!
シャッターチャンス!
わざわざ日本で高いカメラを買って持ってきたのですが、これまでほとんど写真を撮らなかったこの私。
たまには使ってやらないと可哀想なのでここぞとばかりにバックパックからカメラを探します。
この2日間で移動した場所は粒マスタードのニオイがするホテル、12時間のホテル、マクドナルド、インターネットカフェ、公園の5箇所です。
金持ちの息子ふうの見た目をしているくせに物乞いをしてきた子豚を撮影した記憶があるので、マスタードホテルにカメラを置き忘れたというのはありえません。
インターネットカフェとマクドナルドではバックパックの中を触っていないので、12時間のホテルか公園です。
確認する意味もないのですが、Nikonのカメラは安くないため諦めきれず再びジプニーに乗り街に戻りました。
カメラなんてなかったよ!
帰れ!ロン毛!
一度帰国を決意した公園の寝ていた場所へ戻りましたが、もちろんカメラはありませんでした。
もう無理だ…
同じ場所で再び仰向けになり目を閉じました。
ほんとに情けねぇな
命あるうちに旅をしろ!
脳みその中にいる誰かの囁きが聞こえてきます!
カメラなんて無くても旅はできる!
盗まれたんじゃなくて寄付したことにしよう!
空港にゆくぞ!
私は気持ちを切り替えてゲートに向かいました。
それで素敵な思い出をたくさん残してくれ
リラックスできる場所でお願いします
ゲートに戻ると最初のおじさんではなく違うおじさんが話しかけて来ました。
15ペソだけど乗る?
すぐ行くよ
乗ります!
すぐに出るなら250と言っていた最初のおじさんとは比べものにならないほどの安さに呆れてしまいます。
空港に着きましたが、重要なことを忘れていました。
この空港は建物内に入る前から荷物検査があり、航空券の提示が必要なのです。
いとも簡単に追い出されてしまいましたが、もう二度とアンヘレスの街に戻りたくない私は引き下がりませんでした。
どこに行ってもネットが繋がらず、航空券を買えませんでした!
なのでWi-Fiが繋がるところまででいいのでどうか中に入れてくれませんかねぇ⁉︎
熱い気持ちが伝わりふたりの警備員に挟まれた格好で、中に入ることを許されました。
しかし案の定空港のWi-Fiも使い物になりません。
この街のインターネット!
見かねたひとりの警備員が手招きをするのでついていくとそこは『STAFF ONLY』の部屋でした。
中には空港のスタッフだと思われるおばちゃん集団が食事をしていました。
その中のひとりがめんどくさそうにひとこと。
航空券を買いたいのでインターネットを使わせてほしい旨を伝えました。
行き先決めるための調べ物すらできていなかった私はどこに行けばいいのか分かりません。
おばちゃんに決めてもらうことにしました。
セブで!
秒速で私の大事な旅先を決められてしまいましたが、これにて一件落着。
この時代にはなかなか見ることのできない紙のチケットを手に入れました。
ついでに9日のセブ-マニラの便も検索してもらい、あっさり問題は解決しました。
よかった!ほんとによかった!!
これでダメなら本当にやめてた!!
とにかくつらかったこの街をやっと離れることができます。
しかし出発は8時間後です。
街に出て暇を潰したいところですが、またなにかのトラブルに合う気がしてなりません。
とりあえずベンチに座ってコーヒーを飲んでいると、白人のバックパッカーが私のとなりに座り話しかけてきました。
なんと彼は台湾からクラーク空港に着いた夜に空港で見た男だったのです。
スウェーデン人のルーカス(30)は台湾人女性と付き合っていて台北に滞在しているそうです。
ビザの関係で一旦国外に出なければいけなくなったらしく、仕方なくフィリピンに来たらしいとのこと。
誰かと酷似したシチュエーションです。
大嫌いだ
私もそこに泊まっていたので!
さらに飛行機の時間は8時間後とのことで、シチュエーションが似過ぎていて一気に仲良くなってしまいました。
違うところといえば顔面偏差値くらいです。
自分たちの生い立ちや旅行で行ってみたい国の話をして、時間があっという間に過ぎてしまいました。
あちらも暇を持て余しているのか私の拙い英語にもじっくりと付き合ってくれて、この待ち時間の間だけでも英語力が向上した気がします。
そして国内線と国際線の別れるところで握手をして別れました。
終わりよければすべてよし。
コロコロと気分が変わり、大変な2日間でしたがルーカスのおかげでアンヘレスの記憶は少しだけ良いものになりました。